日本地球化学会 会長 鍵 裕之

 2019年9月19日の理事会の議決により、益田晴恵前会長からバトンを受け、会長を拝命いたしました。一般社団法人として3年目を迎え、Goldschmidt Conferenceの日本開催や近隣国とのMOU締結を済ませ、学会運営は無事に巡航飛行に入ったとも言えますが、1000人規模の学会を代表する重責を感じております。もとより微力ではありますが、本学会のさらなる発展に向けて努力をしてまいります。皆様のご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

 日本地球化学会は1953年に発足した地球化学研究会に端を発し、1963年に日本地球化学会と名称を改め、2017年11月から一般社団法人 日本地球化学会として再出発し、現在に至っております。1966年から欧文誌Geochemical Journalを、1967年から和文誌 地球化学を発刊しました。1994年には会員数が1000名を超え、2003年にくらしき作陽大学で、2016年にパシフィコ横浜でGoldschmidt Conferenceを主催し、Geochemical Society、European Association of Geochemistryと肩を並べる学会へと成長しました。さらに中国鉱物岩石地球化学会、韓国地質学会、中華民国地質学会(Geological Society located in Taipei)ともMOUを結び、アジア各国との連携にも力を入れております。また、2013年筑波大での年会は日本鉱物科学会と同時開催し、両学会の共通セッションを設けるとともに、参加者は二つの学会を自由に行き来することができました。諸先生方、先輩方のご尽力により、これまで本学会はきわめて順調に発展してきました。今後もこの高いアクティビティを維持し、さらなる発展を遂げるためには、原点に立ち戻りつつ変革をしないといけないと考えております。映画「山猫」でのアラン・ドロンの名台詞にあるように “We must change to remain the same.”の精神で頑張っていきたいと思います。

 学会活動の要は年会と学術誌の発刊にあると言って過言ではないでしょう。記憶にない会員も多くいらっしゃると思いますが、2005年までの本学会の年会は、「海洋」、「岩石・地殻」、「地球外物質」、「堆積物」、「生物」、「大気・降水」、「陸水」、「生物」、「有機物」、「環境」、「熱水・温泉」に分類される一般講演に加えて、開催地ごとに企画される課題講演で運営されていました。2008年に東大駒場キャンパスで開かれた年会を、私はLOCメンバーの一人としてお手伝いしました。今から思えば若気の至りではありましたが、長年親しまれてきた一般講演の分類を一新し、当時の評議員メンバーの方々とも相談しながら30を超す個別セッションを提案し、学会外の方も積極的に参加しやすいように工夫をこらしました。その甲斐あって駒場年会は500人以上の参加者を記録しました。駒場年会から既に干支は一巡し、そろそろ次の仕掛けを考える時期に来ていると考えております。個別セッションにすることで学会外の研究者も招き入れてより深い議論ができる反面、セッションが細分化され、分野横断的な話題を議論する余裕がなくなったと言うデメリットもあるかもしれません。詳細はこれから皆さんと議論しながら進めていきますが、分野間の相互作用を意識したセッションを新たに立ち上げることを含め、年会の改革を進めていきたいと考えております。地球化学は地球惑星科学のコミュニティでは「横串」の学問で、本学会には研究対象や手法が異なる多様な研究者が在籍しています。この多様性を活かし、そして我々の強みとし、学会外の研究者も招き入れながらより活発な年会としていきたいと思います。

 学術雑誌の動向も近年大きく変化してきております。Geochemical Journalは冊子体の発行を基軸にしてきましたが、会員の方々の多くは電子媒体で購読されていることと思います。しばしば若手研究者から「Geochemical Journalはどれだけの研究者に読まれているのでしょうか?」という質問を受けます。オープンアクセス論文であれば出版と同時に世界の研究者が目にすることができますが、どのような国・地域の研究者が冊子体を購読しているのか、と言う情報を正確に得ることは難しいのが現状です。完全オープンアクセス化を含め、Geochemical Journalの今後のあり方を、この2年間で丁寧に考えていきたいと思います。和文誌 地球化学も変革が必要です。冊子体として届く和文誌は、多くの会員が母国語で読める学術雑誌として、そして会員と学会を結ぶ媒体としてきわめて重要な位置づけをもっております。一方で、年4冊の雑誌の発行と発送を維持することは編集面でも財政面でも負担が大きいことも事実です。1996年までは地球化学は年2号の発行でしたが、1997年から年4号の発行となりました。号数を増やした理由は印刷媒体として発行していた学会ニュースを地球化学と合冊し、Geochemical Journalと同時配送することで発送費を節約するためでした。現在は緊急性の高い情報は電子メールやインターネット経由で瞬時に伝えることができますし、多くの会員はGeochemical Journalを電子購読していますので、20年以上前に地球化学を年4冊に増やした理由はもはや現在は存在しないことになります。地球化学の発行形態も良い方向に改善していきたいと考えております。

 冒頭で本会の会員数が1000人規模と述べましたが、厳密には2019年7月末の会員数は895人で、残念ながら少しずつ会員数は減少しております。少子化が進んでいるこの時代において、右肩上がりの会員数増を目指ことは現実的ではありませんが、これ以上の会員数の減少は何とか食い止めたいと思います。そのためには学会が魅力的なものである必要があると思います。会員一人一人の満足度を上げ、何のために学会に入るのか、学会に入るメリットは何かを襟を正して考え直したいと思います。このような状況の中、2019年の総会で50年顕彰を受けられた平林憲次会員のご挨拶が大変印象に残りました。平林会員は学位取得後、一般企業に就職されましたが、会員を継続されて2-3年に一度は欠かさず学会に参加されていたそうです。平林会員はご挨拶の中で、「年会費に見合う以上のベネフィットを受けることができたので、これからの若い会員の皆様も学会員を継続して下さい」と話されていました。一会員としてうれしく思うとともに、学会執行部として学会をさらによりよくしていかなければいけない責任を痛感いたしました。

 以上、とりとめなく学会の簡単な紹介と会長としての所信を述べさせていただきました。今後の学会の在り方など、会員の皆様からの忌憚なきご意見をいただければ幸いです。これから2年間、どうぞよろしくお願い申し上げます。