▼ 白井厚太朗会員と上野雄一郎会員の研究成果がGeochimica et Cosmochimica Actaにて発表されています

Minor and trace element incorporation into branching coral Acropora nobilis skeleton
Kotaro Shirai, Tatsunori Kawashima, Kohki Sowa, Tsuyoshi Watanabe, Toru Nakamori, Naoto Takahata, Hiroshi Amakawa and Yuji Sano
Geochimica et Cosmochimica Acta
Volume 72, Issue 22, 15 November 2008, Pages 5386-5400
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白井会員による内容紹介:
サンゴ骨格に含まれる酸素同位体比やストロンチウム/カルシウム比などを分析することで,過去の水温を明らかにすることができます.しかし,枝サンゴはサンゴ礁を形成する主要な種であるにもかかわらず,骨格成分と環境因子の関係についてよくわかっていませんでした.私たちは枝サンゴAcropora nobilisの骨格を様々な空間スケールで分析することで,枝サンゴがどのように環境を記録しているのかを評価しました.骨格の主成長軸に沿ったバルク組成を分析した結果,酸素同位体比以外の微量元素組成は季節周期を示しませんでした.骨格を詳細に観察したところ,枝サンゴの骨格は,まず隙間の多い骨格を形成することで急速に成長し,その後時間をかけて隙間を埋めるような骨格を形成することで補強するという成長様式を持つことがわかりました.そして微小領域の分析結果から,隙間を埋める骨格は,成長時に形成される骨格と微量元素組成が大きく異なることを明らかにしました.これらの結果は,従来のバルク分析では枝サンゴから古環境復元を行うことはできず,成長時に形成される骨格のみを微小領域分析法で選択的に分析する必要があることを示しており,古環境復元の信頼性向上に大きく貢献する知見です.



Quadruple sulfur isotope analysis of ca. 3.5 Ga Dresser Formation: New evidence for microbial sulfate reduction in the early Archean
Yuichiro Ueno, Shuhei Ono, Douglas Rumble and Shigenori Maruyama
Geochimica et Cosmochimica Acta
Volume 72, Issue 23, 1 December 2008, Pages 5675-5691
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上野会員による研究紹介:
太古代における生物地球化学的な硫黄循環の解析のため、西オーストラリア・ドレッサー累層に産する約35億年前の重晶石(BaSO4)とそれに伴う種々の岩石試料について硫黄同位体分析を行った。従来用いられてきた34S/32S比に加えて、存在度の低い33S および36S を高精度に分析した結果、硫酸塩・硫化鉱物の同位体組成はそれぞれ異なる混合曲線を示すことが明らかになった。このことから特に当時の海水硫酸は(1)質量非依存分別をもつ大気エアロゾル由来の硫酸と(2)火山活動に伴う硫黄不均化によって生成した硫酸の二つがその供給源であった事が示唆された。また、従来この重晶石は34Sに枯渇する黄鉄鉱(FeS2)を含むことが報告されていた。この同位体分別を生じた原因は(1)硫酸還元菌の活動によるもの(Shen et al., 2001)、(2)硫黄不均化菌の活動によるもの(Philippot et al., 2007)、及び(3)熱水活動に伴う無機的な同位体分別(Runnegar, 2001)の三説があり決着がついていなかった。筆者らの分析の結果、微少な黄鉄鉱は母岩の重晶石と比べて34Sに枯渇するだけでなく、0.1‰程度の高い・33S値をもつことが明らかになった。この特徴は(2),(3)の過程で生じる分別では達成しがたく、むしろ硫酸還元菌の培養実験によって示された四種同位体の挙動と調和的であるため、これを地球最古の硫酸還元菌の活動記録とする考えを支持した。