▼ 山本順司会員の成果がEarth and Planetary Science Lettersにて発表されています

Diffusive fractionation of noble gases in mantle with magma channels: origin of low He/Ar in mantle-derived rocks.
Junji Yamamoto, Koshi Nishimura, Takeshi Sugimoto, Keiji Takemura, Naoto Takahata and Yuji Sano
Earth and Planetary Science Letters
Volume 280, Issues 1-4, April 2009, Pages 167-174

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内容紹介:
 どんな物質でも時間とともに放射起源核種の相対比は生成比に収束していく.そのため,この値は天然で巻き起こる様々な現象を辿る作業の原点となる重要な指標である.例えば,UやKから生成する4Heや40Arの割合(4He/40Ar)はマントル内では1-5(モル比)と推定されており,この値からのずれに着目してマグマの脱ガス過程はかなり詳しく議論されてきた.マグマからガスが抜け出る際には,マグマへの溶解度が低いArが優先的に脱ガスし,マグマ中の4He/40Arは次第に上昇していくことが知られている.ところがハワイなど海洋島を構成するマグマでは時折低い4He/40Arが見られ,最近,その原因として発泡時の非平衡脱ガスが議論され始めた.マグマの発泡中,希ガスはその高い不適合性から気相へ分配される.この分配が急速に且つ不完全に行われた場合,拡散が速い4Heが優先的に脱ガスすることになり,マグマの4He/40Arが発泡とともに減少する可能性が検討され始めている.

 著者らはこれと似た現象がマントル内でも起こりうるのでないかと考えた.マントル内でマグマが移動すると,マントル内の希ガスはマグマへ分配される.この時,マグマの非平衡脱ガス過程と同様に,拡散の速い4Heが優先的に抜き取られ,残存マントルの4He/40Arが減少する可能性が考えられる.この考え方自体はそれほど目新しいものではない.相補的にマグマ側の4He富化に着目した先駆的な研究が既に提唱されている(Matsuda & Marty, 1995).本研究の価値は抜けカス側の組成変化を定量的に究明することにある.そこで,本研究ではマントル内に板状マグマチャネルが発生した状況を想定した拡散方程式を解き,様々な間隔を持つマグマチャネルを想定して拡散分別過程の時間変化を追った.その結果,これまでに報告されている世界中のマントル捕獲岩と火山岩斑晶のHe-Ar同位体組成が拡散分別とその後の放射起源核種の蓄積で説明できることが分かった.大陸や島弧直下のマントルは,中央海嶺玄武岩に代表される海のマントルとは異なる希ガス同位体組成(特に3He/4He)を持つと考えられてきたが,拡散分別過程を遡るとその違いは極めて小さいものとなり,双方の誤差を考慮すればもはや明確な違いは言及できないことが判明した.このように動的分別効果を用いた世界観は地球内部の化学的構造に関した議論を変えるほどの影響力を秘めている.

 ただし,希ガスの拡散係数は完全に決まっている値ではない.特に元素間の拡散係数比は理論値を使わざるを得ない状況にある.おそらく同じ問題が希ガス以外の元素にも残っていると思われる.天然における非平衡過程の究明は現象の理解だけでなく源物質の特定にも威力を発揮するはずである.様々な状況を想定した基本式と基本的なパラメーターの系統的な整理が必要であろう.