▼ Geochemical JournalにてExpress Letter論文が公開されました

H2 generation by experimental hydrothermal alteration of komatiitic glass at 300°C and 500 bars: A preliminary result from on-going experiment
Motoko Yoshizaki, Takazo Shibuya, Katsuhiko Suzuki, Kenji Shimizu, Kentaro Nakamura, Ken Takai, Soichi Omori and Shigenori Maruyama
Geochemical Journal, Vol. 43 (No. 5), pp. e17-e22, 2009
URL
吉崎もと子学生会員による内容紹介:
 「300度、500気圧におけるコマチアイトガラスの熱水変質実験による水素発生」

 深海熱水系は地球上における生命の誕生・進化の場として注目されてきた。初期地球における最も原始的な微生物生態系はメタン生成菌を一次生産者としてもつ生態系だと考えられており、それらは二酸化炭素と水素からエネルギーを得ている。地球史を通して二酸化炭素は初期地球の大気及び海洋中に現在よりもはるかに高濃度で存在したとされることから、水素こそが初期地球の熱水系において生命活動を支える重要な鍵であったと言える。深海熱水系における水素の発生は超マフィック岩であるかんらん岩の蛇紋岩化で確認されており、その水素発生機構は理論的にも実験的にも研究されている。しかし、初期地球は火成活動が活発であったために海洋地殻が厚く、マントルを構成する岩石であるかんらん岩が海洋底へ露出していたとは考え難い。その他の水素発生反応候補は、超マフィックな火山岩であるコマチアイトが海洋底に噴出する際に起きた熱水変質である。しかし、コマチアイトを用いて水素発生を評価した実験例はまだ無い。本研究では、300℃、500気圧の条件下でコマチアイトと純水を用いた熱水反応実験を行い、反応にともなう水素の発生を確認した。

 出発物質として、南アフリカ、バーバートン緑色岩帯で採取されたアルミニウム枯渇型のコマチアイトを用いた。天然で採取された岩石試料は風化・変質の影響を受けているため、再溶融することでその影響を除去した後、急冷してガラスを作成した。このガラスと純水を1:4の割合で使用し、300℃、500気圧の条件下で約2,600時間反応させた。その結果、溶液試料中の水素濃度は2.4mmol/kgまで上昇した。得られた水素濃度は、現世の熱水活動域のうち、初期生態系とよく似たメタン菌を一次生産者とする生態系が発見されたかいれいフィールドやレインボーフィールドに匹敵するほど高濃度であった。実験は継続中であるが、本研究により、コマチアイトの熱水変質は初期地球の熱水系において、地球初期のメタン生成菌を中心とする生態系を維持するのに十分な量の水素を含む熱水を生成しうることが証明された。