▼ Geochemical JournalにてExpress Letter論文が公開されました

Anomalous geographical gap in carbon monoxide mixing ratios over Hokkaido (Japan) in summer 2004
Hiroshi Tanimoto, Yasunori Tohjima, Hitoshi Mukai, Hideki Nara, Shigeru Hashimoto
Geochemical Journal, Vol. 43 (No. 5), pp. e23-e29, 2009
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谷本浩志会員による内容紹介:
 「2004年夏季に北海道上空において観測された大気中一酸化炭素濃度の地理的ギャップ」

 一酸化炭素(CO)は化石燃料やバイオマスなどの燃焼によって大気中に放出される物質であり、人間の産業活動や自然に発火する森林火災などがその起源である。大気中のCOは水酸ラジカル(OH)との反応を通じてメタンなどの大気中寿命の決定に関与しており、その分布や変動の正確な把握は、例えば燃焼と生物活動の両方に起源を持つ二酸化炭素(CO2)の動態解明などに有益である。

 2004年夏に北海道・落石岬の大気観測所で、例年には見られないほど長期にわたって低濃度COイベントが観測された。その濃度レベルも通常とは異なり、沖縄・波照間島における濃度レベルとほぼ同じであった。また、北海道の東西に位置する落石岬と利尻島は通常よく似たCO濃度を示すが、このイベント期間中は全く異なる挙動を示した。COの発生源・消失源を組み込んだ領域化学輸送モデルによるシミュレーションを行った結果、モデルは観測されたイベントをよく再現し、この低濃度イベントが落石岬だけではなく日本付近一帯にわたって起こっていることが明らかとなった。さらに、北海道上空のCO濃度に地理的ギャップがあることが分かった。過去11年間におけるモデルの再現結果から、2004年は西太平洋上における東風が非常に強い特異的な年であり、観測された低濃度COイベントは清浄な海洋性空気塊が日本北部まで非常に速く深く輸送されてきていたために起こったものであると結論付けられた。この輸送メカニズムはCOだけでなく、メタンや二酸化炭素といった温室効果ガスの濃度変動もよく説明することができ、複数の大気微量成分の挙動を支配していたことが明らかになった。