▼ Geochemical JournalにてExpress Letter論文が公開されました

XAFS解析に基づく鉄マンガン酸化物へのモリブデンの吸着反応に伴う同位体分別機構の解明
柏原輝彦1、高橋嘉夫1、谷水雅治2(1広島大学、2 高知コアセンター)
Geochemical Journal, Vol. 43 (No. 6), pp. e31-e36, 2009
URL
柏原輝彦会員による内容紹介:
 「XAFS解析に基づく鉄マンガン酸化物へのモリブデンの吸着反応に伴う同位体分別機構の解明」

 鉄マンガン酸化物は、海洋環境に広く存在する鉄水酸化物およびマンガン酸化物の凝集体であり、海水中の様々な微量元素を濃集する。中でもモリブデン(Mo)は、海洋環境における全収支の70%程度が取り込まれる元素であるため、海水中のMoの溶存濃度を考える上で、鉄マンガン酸化物への吸着反応は重要である。

 近年、この吸着の際に軽いMo同位体が選択的に取り込まれ、海水−鉄マンガン酸化物間でおよそ2‰(97Mo/95Mo)という大きな同位体分別が起きていることが新たに報告された。このことから、海水中のMo同位体比は、酸化的堆積物である鉄マンガン酸化物の存在量に依存して変化すると考えられるため、古海洋の酸化還元環境の指標として有望視され、盛んに研究されている。

 しかしながら、なぜ鉄マンガン酸化物への吸着の際に、大きな同位体分別が生じるのか、そのメカニズムを明らかにした報告はなかった。そこで本研究では、固相表面での元素の化学形態を直接測定できるXAFS法を用いて、太平洋で採取された天然の鉄マンガン酸化物、およびその主成分である鉄水酸化物とマンガン酸化物に吸着したMoの化学形態をそれぞれ調べた。その結果、(1) 海水中の主成分であるモリブデン酸イオン(MoO42-)は鉄水酸化物に対して水分子を介して吸着することで構造を大きく変えないこと、(2) 一方、マンガン酸化物表面に対しては共有結合を介して結合し、モリブデンは八面体の表面錯体へ対称性を変化させること、(3) さらに、天然においてMoは鉄マンガン酸化物中のマンガン酸化物相に選択的に吸着し、(4) この吸着した八面体の分子とモリブデン酸イオン(MoO42-)との間の構造の違いが、海水−鉄マンガン酸化物間に観測される同位体分別の主要因であること、などが明らかとなった。

 マンガン酸化物は鉄水酸化物より酸化的環境下で沈殿する性質をもつ。従って、地球の歴史において海洋環境が還元的環境から酸化的環境へ進化する過程において、まず鉄水酸化物が沈殿し、さらに海洋が酸化的になった場合にマンガン酸化物が沈殿すると考えられる。この場合、Mo同位体比は後者の過程に敏感に応答すると考えられ、地球が酸化的になる過程を評価する上で、Mo同位体比を指標としたより詳細な古海洋環境の議論が可能になると期待される。また本研究は、このようなMo同位体比の変動の特徴を分子レベルの構造情報から明らかにした点で興味深い。