▼ 飯塚毅会員らの成果がGeochimica et Cosmochimica Actaにて発表されました

砕屑性ジルコンから読み取る花崗岩質地殻のハフニウム同位体組成進化と大陸成長

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飯塚毅会員による内容紹介:
 「砕屑性ジルコンから読み取る花崗岩質地殻のハフニウム同位体組成進化と大陸成長」

 大陸地殻の存在は、水惑星・地球の重要な特徴の一つであり,風化・浸食作用を通して海洋や大気の組成を大きく左右する。現在の大陸地殻は,地球表層の約30%を占めており,その上部は主に花崗岩質地殻から,下部は苦鉄質地殻から成っている。このような,大陸地殻の層構造は,苦鉄質な大陸地殻が再溶融し,花崗岩質な大陸地殻を再形成することにより,できたと考えられる.しかし,初生的な大陸地殻がいつ頃形成され,また,それがいつ再溶融(分化)して,今現在見られる大陸地殻の姿をえたのかについては,まだ良く分かっていない.

 花崗岩質地殻の放射性同位体組成(e.g., 143Nd, 176Hf)の経時変化は、いつ頃初生的な地殻の形成(大陸成長)が盛んだったか,また,いつ頃大陸地殻の分化が重要だったかを反映する。しかしこれまでは、花崗岩質地殻が化学的・同位体的に非常に不均質であるため、その同位体組成が全体として(大陸スケールで)、どのように変遷してきたかは明らかにされていなかった。

 本研究では、花崗岩質地殻のハフニウム(Hf)同位体組成進化を明らかにするために、巨大河川の川砂に含まれるジルコンに着目した。巨大河川は、広範囲にわたる大陸地殻を浸食・混合している。また、ジルコンは変成・堆積作用を経ても、母岩の年代情報(U-Pb年代)、Hf同位体組成を保持している。したがって、巨大河川の川砂ジルコンの年代及びHf同位体組成を系統的に調べることが、花崗岩質地殻の同位体組成進化を大陸スケールで評価するには、最良の方法と考えられる。これまでに、ミシシッピー川、アマゾン川、コンゴ川、長江の四河川の川砂ジルコン約1,000粒について、年代測定及びHf同位体分析をレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により行った。

 年代測定の結果,巨大河川の川砂中には,>33億年前のジルコンが欠乏していることが分かった.また,Hf 同位体分析の結果は、花崗岩質地殻のHf同位体組成が、(i) 約33-20億年前にかけて、マントルのHf同位体進化曲線からズレていき(相対的に176Hf/177Hfが低くなり)、(ii) 約20-13億年前にかけて、そのズレは減少し、そして(iii) 約13億年前以降は、再びそのズレが増加したことを、明らかにした。このHf 同位体の経時変化は,初生地殻の形成率が,33億年前以前及び約13億年前に,高かったこと,また,大陸地殻の分化が23-22億年前及び6億年前以降盛んだったことを示唆する.一方、>33億年前に初生地殻形成率が高かったにも関わらず,川砂中に>33億年前のジルコンが欠乏していることは、>33億年前に形成された初生地殻が,安定な大陸地殻ではなく,浸食・運搬・沈み込み過程を経てマントルにリサイクルされやすい(川砂ジルコンの記録に残りづらい),島弧地殻であったことを示唆する。