▼ 飯塚毅会員らの成果がEarth and Planetary Science Lettersにて発表されました

太古代初期岩石のタングステン同位体組成:初期地球分化及びコア-マントル相互作用への知見

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飯塚毅会員による内容紹介:
 「太古代初期岩石のタングステン同位体組成:初期地球分化及びコア-マントル相互作用への知見」

 182Hf-182W壊変系は,半減期が約9百万年と短く,HfとWが共に難揮発性であり,それぞれ親石性及び親鉄性であることから,惑星のコア形成年代決定に利用できる.これまで,若い年代の様々なテクトニックセッティングの地球岩石試料のW同位体組成が調べられてきており,それらは全てコンドライト隕石に比べて2イプシロン高い182W/184Wをもつことが明らかになっている.もし,『若い地球岩石試料とコンドライト隕石のW同位体組成の差が,コア形成イベントだけによるもの』と仮定すると,地球のコア形成は太陽系起源後>3千万年に起こったと考えられる.しかし,この仮定の妥当性については,これまで評価されていなかった.この仮定が破綻するケースとして,1)コア形成後,コアーマントル相互作用により,マントルのW同位体組成が経時変化した場合,2) 182Hf消滅前(太陽系起源後5千万年以内)に地殻-マントル分化が起こり,低いHf/W及び182W/184Wをもつ初期地殻がマントル深部に隠れている場合,3)そもそも,地球全体のHf-W同位体進化は,コンドライト隕石のそれとは違った場合,が挙げられる.特に,最近の146Sm-142Nd壊変系の研究で,全ての地球岩石試料の142Nd/144Ndが,コンドライト隕石のそれよりも高い値をもつことが明らかになっており,この結果は,上記のケース2)もしくは3)を必要とする.

 本研究は,地球マントルのW同位体進化を調べるために,グリーンランド及びカナダの太古代初期岩石試料のW同位体分析を行った.その結果,全ての試料は,若い地球岩石試料と同じW同位体組成をもっていることが分かった.このことは,ケース1)-コアーマントル相互作用によるマントルW同位体組成の経時変化-は,起こっていなかったことを示す.また,本研究で分析した試料の内のいくつかは,これまでに分析された地球岩石試料の中で,最も高い142Nd/144Ndを示す試料であり,もしケース2)の場合は,それらが他の地球岩石試料に比べて高い182W/184Wをもつことが予測される.このことから,本研究の結果は,ケース3)-地球全体のHf-W同位体進化は,コンドライト隕石のそれとは異なるー,を支持し,引いては,地球化学における一般的な仮定『地球全体の難揮発性元素の相対比は,コンドライト隕石のそれと一致する』の見直しが必要であることを示唆する.