▼ Geochemical JournalにてExpress Letter論文が公開されました
岩石中に生成する宇宙線照射生成核種10Beと26Alの深度プロファイルを用いた阿武隈西部地域における風化地表面真砂土の長期的な侵食速度の定量
城谷和代 (東京大学),横山祐典(東京大学),松崎浩之(東京大学)
Geochemical Journal, Vol. 44 (No. 6), pp. e23-e27, 2010
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宇宙線照射生成核種(Terrestrial Cosmogenic Nuclide; TCN)は地表面近傍(~数メートル)で,地表面に到達する二次宇宙線と鉱物中の特定の元素との相互作用により,岩石中に生成されるものである.この蓄積量から地表面の露出期間や侵食速度を直接かつ定量的に求めることのできる手法として,近年,広く用いられるようになった.特に半減期の比較的長い10Be(1.36 Myr)や26Al(0.75 Myr)は,直接観測の難しい長期的な(数百万年)地形発達の情報を得る事が可能な核種として注目されている.乾燥地域を中心に,世界各地でこの手法が用いられはじめている.しかし,本邦においては,この手法を用いた研究例はほとんどない.日本では,花崗岩地域が広く分布しているが,多くの場合,基盤岩である花崗岩が風化を受け,土壌化(真砂化)した状態にある.真砂化は,水分の吸収と蒸発が活発な地表面で卓越しているため,地表面は水流や風流に対し不安定である.そもそも10Beや26Alは年間数十個しか地表面近傍に生成されず(中緯度地域・海抜では,~10個(10Be),~40個(26Al)),不安定な地表面では,地表面に蓄積している核種の濃度のみから侵食速度に制約を与えることは難しい.
そこで本研究では,深度方向の核種の分布を調べる事で,より確度の高い真砂土層の侵食速度を定量することを試みた.すでに,ニュートロンの効果のみによる核種の生成量に基づいて行われた先行研究において,深度プロファイルを用いた侵食速度の決定法の有用性は示唆されている.本研究では,これまで行われてきたようなニュートロンの効果が卓越する浅い部分のみによる核種プロファイルよりも,より深部で寄与するミューオンの作用に基づく核種の深度プロファルを調べることにより,確度よく侵食速度を定量できることを確かめた.特に,表層の浅い部分に風化が卓越した真砂土層では,確度の高い侵食速度を評価するためには,少なくとも80センチメートル以深の核種深度プロファイルを調べる必要があることが明らかになった.
長期的な侵食速度を直接求める手法として,日本の地質におけるTCNの深度プロファイルによる決定法の有効性を再確認できた.今回の成果は,陸域の地形プロセス研究への貢献にとどまらず,堆積物の供給源における陸源物質生成速度と降水量などの気候値との関係についての定量的な見積もりを行うことができたという観点から,海洋地質学分野などに対しても,有用なデータを提供することができた.
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