▼ 則末和宏会員、宗林由樹会員らの成果がNature Geoscienceにて発表されました

太平洋断面分布におけるジルコニウム-ハフニウム,ニオブ-タンタルの著しい元素分別
Strong elemental fractionation of Zr-Hf and Nb-Ta across the Pacific Ocean

M. Lutfi Firdaus(Bengkulu University),南知晴,則末和宏,宗林由樹(京都大学化学研究所)

Nature Geoscience, advance online publication (27 March 2011), doi:10.1038/ngeo1114
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内容紹介:

(背景)
 水塊の循環を知ることは,海洋および地球の気候システムを理解する上で重要です.水温と塩分が水塊を特徴付けますが,それはしばしば不十分です.可能性のあるトレーサーが,微量元素とその同位体に求められてきました.候補のひとつは,ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ニオブ(Nb),タンタル(Ta)などの強配位子場元素(high field strength elements, HFSEs)です.これらは,+4または+5の酸化数をとり,Zr(OH)5- や Nb(OH)5 などの水酸化物錯体を生成し,海水に溶けにくく,スキャベンジされやすいため,その起源を反映した分布を示すと期待されます.しかし,海水中HFSEsは分析が困難で,その情報はきわめて限られていました.

(研究手法)
 近年,我々はキレート吸着剤固相抽出とICP質量分析に基づく,海水中Zr, Hf, Nb, Ta, Mo, Wの多元素定量法を開発しました.本研究では,白鳳丸KH-04-5航海の西経170度(65°S〜10°N)およびKH-05-2航海の西経160度(10°S〜50°N)の観測点で各層クリーン採水した海水試料に本法を適用し,溶存態Zr, Hf, Nb, Taの太平洋-南極海鉛直断面分布を明らかにしました.

(研究成果)
 西経170度(65°S〜10°N)および西経160度(10°S〜50°N)に沿った鉛直断面において,HFSEsは一般に表層で濃度が低く,深層では南極海から北太平洋に向かって濃度が増加しました.これらの分布は,HFSEsの収支には海底熱水活動による供給よりも陸源物質の寄与が重要であることを示しています.太平洋海水中の重量比は,Zr/Hf比では45〜350,Nb/Ta比では14〜85でした.これらの値は,淡水,マントル,地殻,コンドライト隕石などの値に比べて高く,かつおおきく変動します.我々は,海洋におけるZr/Hf比およびNb/Ta比が,特徴的な分別を示し,水塊のトレーサーとして有用であることを見出しました.

(今後への期待)
 Hfとネオジム(Nd)の安定同位体比は,大陸風化のプロキシーとして注目されてきました.本研究により,Hfの海洋への供給源として,熱水活動の寄与が小さいことが分かりました.このことは,HfとNdの安定同位体比を用いた古海洋環境復元の精度向上に寄与します.また,Zr/Hf比は,海洋循環の新しいプロキシーとなる可能性があります.

 近年,海洋微量元素とその同位体の全球断面観測を目指した国際観測計画GEOTRACESが開始されました.本研究は,海洋の化学を総合的に理解する上で,高解像度海洋断面観測がいかに強力であるかを示し,GEOTRACES計画の成果に大きな期待を確信させました.