▼ 関根康人会員の成果がNature Geoscienceにて発表されました
巨大彗星の重爆撃イベントによるタイタンの窒素大気の形成
関根康人1、玄田英典2、杉田精司1、門野敏彦3、松井孝典4(1:東京大学大学院新領域創成科学研究科、2:東京大学大学院理学系研究科、3:大阪大学レーザーエネルギー学研究センター、4;千葉工業大学惑星探査研究センター)
Nature Geoscience, vol. 4, p. 359-363, (June 2011), doi:10.1038/ngeo1147
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(背景)
タイタンとは土星最大の衛星であり、その直径は火星の2/3にも匹敵する惑星サイズの天体です。タイタンが科学者にとどまらず広く注目される理由は、地球に良く似た表層環境を持っているためです。特に、タイタンは太陽系では地球以外で唯一窒素を主成分とする厚い大気を持っていますが、その起源は良くわかっていませんでした。従来の考えでは、タイタンも地球と同じように形成期に高温状態を経験し、分化が起きることで現在の大気が形成されたというものが有力でした。しかし、近年のカッシーニ探査の結果、タイタンの内部は高温状態を経験せず分化していないことがわかり、タイタンの窒素大気がいつどのように形成されたのかは謎となっていました。
(研究手法)
我々は今から約40億年前におきた巨大彗星の重爆撃イベントに注目しました。約40億年前のこの時期は、後期隕石重爆撃期と呼ばれ、太陽系全体で巨大衝突が頻繁に起きていたことが知られています。このような彗星衝突が起きると、衝突地点付近も広範囲で高温になり、タイタンに元々含まれていたアンモニア氷が熱分解し、窒素を生成するかもしれません。そこで我々は、飛翔体を秒速数kmという超高速に加速する高エネルギーレーザー銃と、その衝突により生成する気体を調べる分析システムを開発し、彗星衝突の再現実験を行いました。
(研究成果)
衝突実験の結果、後期隕石重爆撃期に起きた高速衝突で、非常に効率よくアンモニア氷が窒素に分解することが分かりました。さらに得られた実験結果を、彗星衝突数値シミュレーションに組み込むことで、この期間全体で生成した窒素量が現在のタイタンの大気量とよく一致することを示しました。
(今後への期待)
我々はこれまで、地球の理解を基礎にそれを応用する形で他の天体の起源や進化を考えてきました。しかし、タイタンは地球とは全く異なるメカニズムで地球に良く似た大気を形成していました。タイタン大気の起源の謎を解くことは、惑星や衛星がいつどのように大気を獲得しうるのかといった、惑星大気形成の包括的理解にとって非常に重要です。このような知見は、近い将来見つかるであろう、太陽系外の地球型惑星の大気や表層環境の推定にもつながることが期待されます。
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