▼ 関根康人会員らの成果がNature Communicationsにて発表されました

オスミウム同位体が示す原生代初期における大気酸素濃度の上昇と気候回復の同時性
Osmium evidence for synchronicity between a rise in atmospheric oxygen and Palaeoproterozoic deglaciation

関根康人(東大・新領域)、鈴木勝彦(海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域、海洋研究開発機構・プレカンブリアンシステムラボ)、仙田量子(海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、後藤孝介(東大・理学系)、田近英一(東大・新領域)、多田隆治(東大・理学系)、後藤和久(千葉工大・惑星探査研究センター)、大河内直彦(海洋研究開発機構・極限環境生物圏領域)、小川奈々子(海洋研究開発機構・極限環境生物圏領域)、丸岡照幸(筑波大学・生命環境科学)

Nature Communications, 2:502, 1-6, doi: 10.1038/ncomms1507 (2011)
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内容紹介:

(背景)
 地球大気中の酸素は、生命による光合成活動によって生み出されており、宇宙から眺めた時に、地球が他の惑星と異なる生命の星であることを示す最大の特徴である。このような酸素大気は、いつどうやって形成したのだろうか。現在、地球大気の21%を占める酸素は、地球史を通じて徐々に増えてきたわけではなく、特定の時期に増加したと考えられている。とくに、今から約20〜24 億年前の大酸化イベントと呼ばれる時期には、それ以前にはほとんど存在していなかった酸素が、現在の1/100以上のレベルにまで急激に上昇したと言われている。
 このような大酸化イベントはどのようなメカニズムで生じたのだろうか。大酸化イベントのメカニズムを理解するためには、酸素濃度が上昇し始めた“タイミング”を明らかにすることが重要となる。なぜなら、たとえば何かの事件(イベント)を引き金に酸素濃度が上昇した場合、酸素上昇とそのイベントがほぼ同時に地層などの地質記録に保存されていることが期待されるからである。しかし、このような酸素上昇と地質イベントの同時性を示すことは簡単ではない。これまでの研究では、地層中に存在している酸化物や硫化物の分析から、その当時大気に酸素が存在していたのかを判断していた。このような従来の指標は常に地層中に存在しているわけではなく、数1000万年間隔で点在しており、それらの点の記録をつなぎ合わせて酸素濃度の変化を推定していた。そのため、もっと短い時間スケールでおきる地質イベントと酸素濃度の変化を照らし合わせることは困難であった。したがって、大酸化イベントの原因を究明するためには、酸素濃度の変化を地質イベントの前後で連続的に追うことのできる新たな指標が必要となる。

(手法)
 我々はこの問題に対し、白金族元素の1つであるオスミウムとその同位体を新たな指標として用い、大酸化イベント中の酸素濃度変化を連続して追尾した。大陸の岩石中に含まれるオスミウムは、酸素濃度が高いとイオンとなり水に溶け、河川を通じて海に運ばれ海底の地層中に堆積する。一方、酸素濃度が低いと水には溶けないため、海水中や地層中のオスミウム濃度は低いままである。さらに、河川を通じて海に運ばれる陸由来のオスミウムは、その同位体比が海底火山などで海洋に直接供給されるオスミウムのものとは大きく異なるため、地層中に含まれるオスミウムの濃度と同位体比の両方を測定すれば、陸から海にオスミウムが運ばれ始めたタイミング、すなわち酸素濃度が上昇したタイミングが特定できる。

(結果)
 我々は、約22〜24.5億年前の地層が分布するカナダ・オンタリオ州の地質調査を実施し、堆積物試料の分析を行った。その結果、大規模氷河期があったことを示す約23億年前の氷河性堆積物と、その直上の温室気候を示す炭酸塩岩の境界の地層から、オスミウムの濃度と同位体比が上昇するシグナルを発見した。このことは、地球が大氷河期から抜け出し、温暖化が生じる気候回復と同時に、大気中の酸素濃度の急上昇が起きていたことを示している。
 我々が考える大酸化イベントの全貌は、次のようなものである。約23億年前、地球は表面の大部分が氷で覆われる大氷河期にあった。大氷河期が終わると、急激な温暖化によって、大陸の化学風化作用が劇的に増大する。その結果、大陸から大量の栄養塩(リン)が海洋に供給され、光合成生物の大繁殖を引き起こし、大量の酸素の放出が引き起こされる。この時代には、全球凍結を含む氷河期が繰り返し起きていたことが知られている。この酸素の上昇により、大気中に存在していたメタンなどの強力な温室効果をもつ還元的なガスは酸化され、濃度が低下する。すると、温室効果が低下した地球は温暖期の後、再び大氷河期に陥り、またその気候回復期に酸素が放出される。このような激しい寒冷-温暖サイクルと、そのたびに起きる光合成活動の活発化は、大気中に酸素が満ちるまで続いたのであろう。

(今後の課題)
 今回の我々の発見は、気候変動が引き金となって酸素大気が形成されたことを示すものだが、大酸化イベントの根本的な原因究明には至っていない。それは、どうして地球は大規模な氷河期に陥ってしまったのかという問題がまだ残っているからである。もし何らかの必然的な理由があって大氷河期が訪れたのであれば、酸素大気の形成や我々につながる高等生命の誕生も、地球進化の必然的な結果の1つなのかもしれない。このような知見は、今や広く社会一般に影響が及ぶ地球温暖化に伴う多圏地球システムの相互作用の理解にとって重要であるだけでなく、近年観測が盛んに行われている太陽系外における第二の地球の発見や生命生存可能性の推測にも示唆を与える。