▼ 本多牧生会員らの成果が Geochemical Journal の Express Letterにて発表されました

福島第一原発事故一ヶ月後の西部北太平洋における人工セシウム-134 -137の拡散状況
Dispersion of artificial caesium-134 and -137 in the western North Pacific one month after the Fukushima accident

本多牧生(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、青野辰雄(放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター)、青山道夫(気象研究所 地球化学研究部)、濱島靖典(金沢大学 低レベル放射能実験施設)、川上創(海洋研究開発機構 むつ研究所)、喜多村稔(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)、升本順夫(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、宮澤泰正(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、滝川雅之(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、才野敏郎(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

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内容紹介:

(背景)
 2011年3月11日、東北沖でマグニチュード9.0の実施が発生、それによる巨大津波で福島第一原発の冷却システムが停止、その結果、水素爆発、炉心溶融により大量の放射能が自然界に放出されました。ある見積もりでは大気へ放出され海洋へ到達したセシウム137、海洋へ直接放出されたセシウム137の量はそれぞれ10PBq, 3.5PBqとなっており、今後の海洋における拡散状況、海洋生物、堆積物への濃縮が懸念されています。

(研究手法)
 海洋研究開発機構では福島第一原子力発電所(FNPP)事故約一ヶ月後に「みらい」MR11-03航海(2011年4月14日〜5月5日)を実施しました。航跡に沿って約1度毎に表層海水を、観測定点K2とS1では動物プランクトンや懸濁粒子を捕集、放射線医学総合研究所、気象研究所、金沢大学のγ線スペクトロメトリーによりこれら試料中のセシウム-134、-137測定を行いました。さらに観測されたセシウム分布を説明するために、汚染水の拡散状況については日本海予測可能性実験モデル2(JCOPE2)により、また大気中へ放出された放射能が大気塵によって拡散する状況は非静力学領域大気数値モデルにより、数値シミュレーションを実施しました。

(研究成果)
 海水中のセシウム-137濃度は三陸沖で最も高い状況でした。また北緯40以北のセシウム-137濃度平均値は、北緯35度以南のものよりも高いものでした。今回観測されたセシウム-137濃度平均値(0.048 Bq kg-1)は国が定める飲料水の暫定基準値(200 Bq kg-1)よりははるかに低い濃度でしたが、3月11日以前の日本周辺表層海水のセシウム-137濃度(約0.001 Bq kg-1) の約50倍に相当するものでした。またほぼ全ての地点で3月11日以前には検出されなかったセシウム-134が検出され、セシウム-134とセシウム -137の比(134/137)はFNPP排水口付近の(134/137)値(約1)とほぼ一致しました。このことからFNPP事故一ヶ月後には西部北太平洋の広い範囲にFNPP由来の人工放射性核種が拡散していたことが明らかとなりました。数値シミュレーションの結果、三陸沖の高い値は汚染水の拡散により説明可能でしたが、北緯40度以北のセシウム濃度は説明できませんでした。大気塵拡散のシミュレーションの結果、FNPP放出の人工放射性核種が大気塵としてK2を含む北緯40度以北へも輸送されていることが明らかとなりました。以上のことからFNPP事故一ヶ月後の西部北太平洋における人工放射性核種の拡散は、汚染水とともに汚染塵の輸送によるものであると推定されました。一方、表層、亜表層の懸濁物、動物プランクトンからセシウム-134が検出され、(134/137)もほぼ1でした。これらのことからFNPPから約1900km離れたK2, 950km離れたS1の懸濁物、動物プランクトンもFNPP事故一ヶ月後にはFNPP由来の人工放射性核種の影響を受けていた事が明らかとなりました。動物プランクトンのセシウム-137濃度は3月11日以前に報告された動物プランクトンの値より二桁高いものでしたが、国の定める肉/魚の暫定基準値500Bq kg-1に比べるとはるかに低いものでした。

(今後への期待)
 同様な調査は、「みらい」MR11-05航海(2012年6-8月)でも実施され、より多くの試料を採集しました。また「みらい」MR12-01航海(2013年1-2月)では南半球を含むより広い海域での調査を実施しました。近い将来、より広域の海水や動物プランクトンに加え、沈降粒子、大気塵、海底堆積物のセシウム濃度についても報告する予定です。