▼ 佐野有司会員らの成果が Nature Communications にて発表されました

雑誌名: Nature Communications オンライン掲載日:2012年3月27日
シャコガイ殻のストロンチウム/カルシウム比に記録された過去の日射量変動
Past daily light cycle recorded in the strontium/ calcium ratios of giant clam shells

Y. Sano, S. Kobayashi, K. Shirai, N. Takahata, K. Matsumoto, T. Watanabe, K. Sowa and K. Iwai〔佐野有司,小林紗由美,白井厚太朗,高畑直人(東京大学大気海洋研究所)/松本克己(ミネソタ大学)/岨康輝,渡邊剛(北海道大学)/岩井憲司(沖縄県水産試験場)〕
DOI番号:10.1038/ncomms1763

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内容紹介:

[研究成果の概要]
 我々の研究グループは過去の日照サイクルを記録しているものの候補として、熱帯から亜熱帯にかけて生息し、最長で百年以上の寿命を持つシャコガイの殻に含まれる微量元素に注目しました。シャコガイは体内に微小藻類を共生させることで光合成に由来する栄養分で成長することができ、その殻には昼夜のリズムに対応し、数十マイクロメートル間隔で1日1本、日輪が形成されます。我々は沖縄県石垣島でシャコガイの一種であるヒレナシ(Tridacna Derasa)を飼育し、並行して環境データの観測を行いました。飼育したシャコガイの殻を最先端の二次イオン質量分析計(ナノ・シムス)を使って2マイクロメートルの解像度で微量元素組成の分析を行いました。この2マイクロメートルという解像度は炭酸カルシウム中の微量元素組成の分析手法としては世界最高レベルの解像度です。
 殻に含まれるストロンチウム、マグネシウム、バリウムの組成を分析した結果、マグネシウムとバリウムは環境の変化に対して比率が変化しませんでした。一方、ストロンチウムは昼に形成される部位でストロンチウム/カルシウム比が低く、夜に形成される部位でストロンチウム/カルシウム比が高いという日射量に対応する明瞭な日周期変動を示すことがわかりました。また、年間を通した変動も、日射量の高い夏期にストロンチウム/カルシウム比が低く、日射量の低い冬期にストロンチウム/カルシウム比が高いという、日射量におおむね対応する変動パターンを示しました。この結果は、化石のシャコガイの殻を同様に分析する事で数千年前の日射量に関する情報を、約3時間の間隔で明らかにすることができる可能性を示しています。

[今後の課題]
 今後、シャコガイ殻の分析から過去の日射量の復元を行うためには、シャコガイのストロンチウム/カルシウム比がどの程度正確に日射量を記録しているのかをより詳細に検証する必要があります。また、シャコガイのストロンチウム含有量がどのようなメカニズムで日射量に応答して変化しているのかを正しく理解する必要があります。
 今回の成果は、日射量という極めて重要な環境要素を観測記録の存在しない時代までさかのぼって明らかにできる手法の可能性を示した重要な結果であり、今後さらなる検証を行い、過去の海洋環境の高解像度復元を進めていく予定です。