▼ 鹿児島渉悟会員らの成果が Geochemical Journal, Express Letter にて発表されました
新しい真空破砕.・抽出法を用いた硫黄・フッ素・塩素・臭素の中央海嶺からのフラックスの見積もり
Estimation of sulfur, fluorine, chlorine and bromine fluxes at Mid Ocean Ridges using a new experimental crushing and extraction method
著者:氏名(所属)鹿児島渉悟, 高畑直人, 鄭進永, 佐野有司(東京大学大気海洋研究所)/天川裕史(国立台湾大学地質科学研究所)/熊谷英憲(海洋研究開発機構)
Takanori Kagoshima, Naoto Takahata, Jinyoung Jung, Hiroshi Amakawa, Hidenori Kumagai, Yuji Sano
公表雑誌:Geochemical Journal, 46, e21-e26
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【研究の背景と概要】
希ガス元素は化学的な反応性が極めて低く、その化学組成に放射性壊変などの物理的な現象の結果のみを反映する性質があるため、物質循環を議論するための追跡子として利用されています。特に、質量数3の同位体であるヘリウム-3に関しては全地球規模での循環が明らかにされているため、これを基準にして他の揮発性元素の循環を推定することが可能です。たとえば、ある揮発性元素の火山からの放出フラックス(輸送速度)を知りたい場合は、マグマが噴出して冷やされ固まった岩石の組成を分析することによってマグマ内部のヘリウム-3と目的の揮発性元素との濃度比を決定し、その濃度比と既知のヘリウム-3のフラックスとを掛け合わせることによって、目的の揮発性元素のフラックスを計算することが出来ます。これは、次の式のように表されます。
(元素Xフラックス)=(元素X)/(ヘリウム-3)×(ヘリウム-3フラックス)
硫黄やハロゲン元素と呼ばれるフッ素・塩素・臭素は、化学的な反応性が高いため大気や海洋中に様々な化合物を作って存在しており、地圏・生物圏において重要な役割を担っていますが、これらの物質循環に関する知見は十分ではありません。そこで我々は、主要な海底火山活動地帯である中央海嶺と背弧海盆から噴出したマグマが急激に冷やされて固まった玄武岩ガラスの組成を分析し、上記のヘリウム-3を基準とする手法によって硫黄・ハロゲンの上部マントルから海洋へのフラックスを推定することを試みました。ここで問題なのは、従来のレーザーを用いた溶融や酸・アルカリ溶液への溶解といった手法では、希ガスと硫黄・ハロゲンを同時に分析することが難しい点です。さらに、岩石全体ではなく気泡部分と固体部分とを別々に分析して、風化による海洋への揮発性元素放出の寄与を分けて考えることで、正確に物質循環を議論することが好ましいと言えます。
これらを可能にするため、我々は中央海嶺や背弧海盆から採取された玄武岩のガラス部分を、凍結した水酸化ナトリウム水溶液と共に真空中で破砕することで、壊れた気泡内部から放出された希ガスと硫黄・ハロゲンを同時に抽出して分析しました。水酸化ナトリウム水溶液に溶け込んだ硫黄・ハロゲンの濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、溶けなかったヘリウムのガスを希ガス用の質量分析計で測定することによって、玄武岩サンプルの気泡内部の組成を決定したのです。我々は、この新たに確立した実験手法を『凍結破砕法』と名付けました。また、破砕後の玄武岩サンプルの粉を真空炉で熔解してガスを抽出測定することにより、固体ガラス部分のヘリウム組成を決定しました。そして得られたデータを基に、硫黄・ハロゲンの中央海嶺からのフラックスを、ヘリウム-3に対する濃度比と既知のヘリウム-3のフラックスとを掛け合わせることによって計算しました。
【成果の意義】
これまで難しいとされていた、玄武岩の気泡に含まれる化学的反応性の高い硫黄・ハロゲンといった揮発性元素と希ガス元素の同時抽出と分析に成功しました。この成果は、地圏・生物圏の両方で重要な硫黄・ハロゲンの循環を解明する研究の基礎となる点で重要な意義を持つと考えられます。また本研究では玄武岩の気泡部分に着目しましたが、将来的には二次イオン質量分析法などの固体部分の分析手法と組み合わせて、より正確な揮発性元素の放出過程を推定することで、地球の大気・海洋の起源と進化の歴史について詳細な議論を行うことが可能であろうと期待されます。
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