▼ 藤谷渉会員らの成果が Nature Communications にて発表されました

隕石中の年代の若い炭酸塩から得られた含水小惑星が遅く形成された証拠
Evidence for the late formation of hydrous asteroids from young meteoritic carbonates


藤谷渉(マックスプランク化学研究所),杉浦直治,堀田英之,市村康治(東京大学),佐野有司(東京大学大気海洋研究所)
Wataru Fujiya (Max-Planck-Institute for Chemistry), Naoji Sugiura, Hideyuki Hotta, Koji Ichimura (University of Tokyo) and Yuji Sano (Atmosphere and Ocean Research Institute, University of Tokyo)
DOI番号: 10.1038/ncomms1635

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内容紹介:

研究成果の概要:
 太陽系には小惑星とよばれる天体が無数に存在し,地球に飛来する多くの隕石の起源,すなわち母天体と考えられています.小惑星内の水や有機物は地球の海や生命の材料になった可能性があるため,水を含む小惑星の形成と進化過程の解明は生命誕生の理解に不可欠です.
 炭素質コンドライトという一部の始原的な隕石は,水の存在下で形成した炭酸塩鉱物を含有しているものがあります.これらには短寿命放射性核種であるマンガン-53がクロム-53に崩壊する系を用いた年代測定が適用できます.これまでに二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて炭酸塩の年代測定が行われてきましたが,得られた分析値には大きな不確定性が存在していました.なぜならば,年代決定に必要なマンガンとクロムの比を決定するのが非常に難しいからです.SIMSによる分析では,未知試料の分析値を較正するために,化学組成(この場合はマンガンとクロム比)がわかっている標準試料を使用する必要があります.ところが,クロムを十分量含んだ炭酸塩が天然には産出しないので,これまでの研究では適切な標準試料が使用されてこなかったのです.そのため,これまでに報告された年代の中には,太陽系の年齢(45億6820万年)よりも古いものが存在するほどです.この矛盾した年代は,正確にマンガンとクロムの比が決定されていないことに起因すると考えられます.
 そこで私たちは,実験室内でマンガンとクロムの濃度が既知の炭酸塩を合成し,それを標準試料に用いる新しい分析技術を開発しました.そしてその技術を用い,CMコンドライトに含まれる炭酸塩の形成年代を,東京大学大気海洋研究所に設置されている最先端の分析装置・ナノシムス(NanoSIMS)で分析しました.
 その結果,炭酸塩の年代は,現在から約45億6340万年前に集中することが明らかになりました.これは,太陽系が誕生してから480万年後に相当し,これまでに報告された年代と比べて若くなっています.すなわち,炭酸塩の年代が太陽系の年齢よりも古くなる,という矛盾は解決され,液体の水はこれまで考えられていたより後に存在した,ということになります.さらにわれわれは,炭酸塩の年代に基づいて小惑星の進化を数値計算し,水を含む小惑星が太陽系誕生から350万年後に形成したことを世界で初めて明らかにしました.
 本研究の成果により,矛盾のない太陽系初期の年代学を築き,初めて水を含む小惑星の形成・進化に関する正しい時間的な描像を得ることができました.小惑星の形成期間は,惑星形成の理論に対して重要な制約となるでしょう.また,はやぶさ2など将来の探査計画によって小惑星から水や有機物を含んだ汚染の少ない試料を持ち帰ることができれば,年代の情報と併せて,生命の起源と進化について重要な知見が得られるかもしれません.