▼ 浅海竜司会員らの成果が Nature Communications にて発表されました

Heinrich Stadial 1(ハインリッヒ亜氷期1)における南太平洋熱帯表層水温の数年スケール変動

Thomas Felis1, Ute Merkel1, 浅海竜司2, Pierre Deschamps3, Ed C. Hathorne1, Martin Kolling1, Edouard Bard3, Guy Cabioch4, Nicolas Durand3, Matthias Prange1, Michael Schulz1, Sri Yudawati Cahyarini5, Miriam Pfeiffer6
(1Univ. of Bremen, 2琉球大学, 3CEREGE, 4IRD, 5Indonesian Institute of Sciences LIPI, 6RWTH Aachen Univ.)
Nature Communications, 3:965, doi:10.1038/ncomms1973 (2012)

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【背景】
 18,000〜14,600年前はHeinrich Stadial 1(HS1:ハインリッヒ亜氷期1)と呼ばれ、最終氷期最盛期から間氷期への遷移期の始めに相当します。その当時の気候状態は、北大西洋の寒冷化や子午面循環の弱化、南半球の温暖化に特徴づけられることが知られています。しかし、太平洋熱帯域にみられるENSO(El Nino/Southern Oscillation,エルニーニョ・ラニーニャ現象)の数年スケール変動が、HS1の気候状態に対してどのように呼応するかについては明らかにされていません。これは、海洋堆積物のコア記録の時間分解能に限界があること、また、低海水準期のサンゴ礁のほとんどは現在の海面下にあり、サンゴ化石試料の採取が困難であることなどから、HS1における太平洋熱帯域の高時間解像度の古気候記録(アーカイブ)が得られなかったことによります。

【研究成果の概要】
 2005年秋、欧州深海掘削コンソーシアムの特定任務掘削船“DP HUNTER”によって、南太平洋タヒチ島の海面下に眠る昔のサンゴ礁堆積物が掘削されました(統合国際深海掘削計画:IODP Expedition 310 〜Tahiti Sea Level〜)。我々の研究では、本航海で得られたサンゴ化石を用いて、HS1に相当する15,000年前のENSO記録が初めて詳細に復元されました。
 そのサンゴ化石は、U/Th法と14C法によって正確な生息年代が決定され、22年間の明瞭な骨格年輪を有します。薄片観察や電子顕微鏡観察、レーザーアブレーションによる微小領域元素分析によって、続成作用の有無を厳密に評価した結果、この試料は極めて保存状態が良い化石であることが確認されました。そして、海水温の指標となるSr/Ca比、海水温と塩分の指標となる酸素同位体組成の分析から、高時間解像度(月別値)の時系列データが抽出されました。
 現生サンゴのSr/Ca比と酸素同位体組成の時系列データとの比較解析や周期解析の結果、15,000年前のタヒチ周辺海域の海水温は現在よりも顕著な数年スケール変動を示すことが明らかになりました。また、HS1における古気候シミュレーションを実施したところ、サンゴ化石からのENSOの復元記録と一致する結果が得られ、エルニーニョ現象によって起こる太平洋熱帯域の海水温偏差の領域が、現在よりも南方へ拡大(あるいはシフト)していたことが示されました。HS1におけるENSOの変調は、北大西洋の寒冷な気候状態下での子午面循環の弱化に応答したものと考えられます。
 エルニーニョ・ラニーニャ現象は大気-海洋相互作用によって生まれる地球規模の自然変動現象であり、それは世界各国に異常気象を引き起こし、時には社会経済的な影響を及ぼします。未来の気候下におけるENSOの動態を予測するためには、古気候アーカイブの蓄積とシミュレーション実験が重要です。本研究で得られた新たな知見は気候モデルに制約を与え、気候変動予測の確度向上に大きく貢献しうると期待されます。