▼ 植村立,鈴木利孝会員らの成果が Nature にて発表されました

 下記成果についての紹介文です.
 なお,著者のうち地球化学会会員は,植村立(琉球大学),鈴木利孝(山形大学)の2名です.

著者: Yoshinori Iizuka, Ryu Uemura, Hideaki Motoyama, Toshitaka Suzuki, Takayuki Miyake, Motohiro Hirabayashi & Takeo Hondoh
著者(日本語):   飯塚芳徳(北海道大)植村立(琉球大),本山秀明(国立極地研),鈴木利孝(山形大),
三宅隆之(国立極地研,現・滋賀県立大),平林幹啓(国立極地研),本堂武夫(北海道大)
タイトル: Sulphate-climate coupling over the past 300,000 years in inland Antarctica
雑誌名: Nature, 490, 81-84, doi:10.1038/nature11359
掲載日: 2012年10月4日

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内容紹介:

【研究成果の概要】
 大気中に浮遊するエアロゾルには雲の生成を助ける作用があり,地球の気温を決める重要な要素です.これまでの南極アイスコアの研究では,溶解した氷サンプルのイオン濃度を主なデータとしており,氷期・間氷期サイクルに伴う硫酸イオンフラックスの変動は小さいことから,放射強制力への影響は小さいと考えられていました(eg., Wolf et al., Nature 2006).
 本研究では,低温下で氷を昇華させることで,アイスコアに保存されている硫酸塩の微粒子(Na2SO4,CaSO4)を1粒ごとに走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置を用いて観察する手法を世界に先駆けて開発しました.この手法を用いて,南極で採取されたドームふじアイスコアに含まれる硫酸塩エアロゾルを測定しました.
 その結果,過去30万年間の氷期-間氷期サイクルにおいて,硫酸塩フラックスと気温の指標(酸素同位体比)の間に逆相関がみられました.これまでの硫酸イオンの氷期・間氷期サイクルが小さかった原因は,間氷期に多く存在する液滴の硫酸を分離せずに測定していたからであることが明らかになりました.
この事実は,硫酸塩フラックスが大きい時代は,エアロゾルの間接効果が気温低下をもたらしていることを示唆します.南極においては,最終氷期最盛期(約2万年前)から現在の間氷期(現在~約1万年前の温暖期)への気温変動は約8℃であると推算さされています.本研究で明らかになった硫酸塩エアロゾルの変動がもたらす間接効果の寄与は,相当の不確実性を含みますが,0.1~5℃と見積られ,硫酸塩エアロゾルが人間活動の影響のない氷期-間氷期の気温変動に寄与していたことを初めて示しました.この結果は,硫酸塩エアロゾルが気温変動を抑制させる方向には働いていないことを示しており,Charlson et al. (Nature, 1987)によって提唱された海洋生物起源物質による気候の調整作用(CLAW仮説)が氷期・間氷期スケールでは成立していなかったことを示唆しています.