■東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設 地球化学研究室

荒川雅 吉野徹

 記念すべき連載第3回目は,東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設・地球化学研究室の紹介を,修士1年の荒川,吉野がお送り致します。

 地殻化学実験施設の教官は,化学専攻と地球惑星科学専攻の両専攻の教育に携わっています(そのため,大学院はどちらの専攻からでも受験できます)。化学専攻では,長尾教授の主宰する惑星化学研究室と,野津教授・鍵助教授の主宰する地球化学研究室が2つの研究室として属し,地球惑星科学専攻では,長尾研究室,野津研究室,森研究室が地球惑星システム科学グループの中に属しています。しかし実質的には角森助手,角野助手,技術補佐員,事務補佐員を加えて,大講座的な運営を行っています。
 今回紹介するのは、野津教授,鍵助教授,森助教授が関わっている研究分野で,大学院生12名及び卒研生4名が指導を受けています(2006年6月現在)。他大学からの外部研究生(外部の大学で卒業研究をする学生:通称外研生)を積極的に受け入れており,現在の卒研生4名のうち2名はそれぞれ東京理科大学,北里大学の学生です。またその影響からか,大学院生のうち7割以上が他大学の学部を卒業した学生です。蛇足ながら,学生の約半数が女性であることを付け加えておきます。特に深い意味はありませんが・・・(「女子学生は昔はもっと多かったんだけどねぇ,ハッハッハ」鍵助教授談)。

 我々の研究室では火山や地震に関連する化学現象の解明やマントルに匹敵する圧力条件での鉱物などの物理化学的な性質を探る研究を進めています。この様に多岐にわたるテーマを扱っているため,実際には火山ガス観測,地下水観測,室内実験の3チームにわかれて,互いに連係し合い研究を行っています。ここで,簡単ではありますがそれぞれの分野について紹介します。
 火山ガス観測チームでは,日本各地の活火山に観測に行き,主に分光法を用いて火山ガスの組成やフラックスを遠隔測定しています。とは言っても,時には火口付近での測定もあるようでガスマスクは必需品とのことです。最近ではCCDカメラを用いてSO2の放出挙動を可視化することに成功するなど,非常に独創的な研究が行われています(図1)。
 また,地下水観測チームは大島や鎌倉など全国11ヶ所の観測点で地震予知の基礎研究という位置づけで,地下水の観測を行っています(図2)。最近ではデータ転送システムを独自に開発するなど,観測システムの高度化を推し進めています。また,着目する化学種も,これまでのラドンだけでなく多様化させ,それらの濃度変化と地震との関係を統計的手法で明らかにしていく試みを行なっています。ちなみに,鎌倉の観測点は海も近く,夏は有意義な観測ができると評判です。この他にも岩石破壊実験を行い,地下水の観測とは違う観点から地震の前兆現象にアプローチしている人もいます。
 最後になりましたが,筆者が所属する室内実験チームでは、鉱物の高圧実験,表面観察,元素の酸化還元状態の分析などを行っています。鉱物の高圧実験としては,ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧下における含水無機化合物の構造変化の研究,マントル由来のダイヤモンドの中に存在する流体包有物の存在状態を探る研究,マントル捕獲岩中の二酸化炭素流体包有物からその岩石が持つ深さ起源情報を抽出する研究などが挙げられます。主に顕微ラマン分光装置,FT-IRなどの測定装置を使い,非常に幅広い研究活動を行っています。鉱物の表面観察は原子間力顕微鏡(AFM)や走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)を使っています(図3)。

 AFMは液中でも測定可能なので結晶の溶解や成長の過程を原子レベルで観察できます。これまでには,希土類元素であるランタンを添加することで,カルサイトのステップに何らかの沈殿物が析出し,成長も溶解も止めてしまうことがわかりました。最近では生体鉱物を意識し,アミノ酸を添加した同様の系で実験を行っています(生体鉱物の研究のために金魚の飼育も始めました)。本研究室のSNOMはAFMを改造した自作品ですが,その性能は既製品と比べても遜色ないものです。SNOMは表面の凹凸像だけでなく,同時に数十nmオーダーの高空間分解能で蛍光スペクトルの測定ができ,その応用は地球化学のみならず材料科学など様々な分野で期待されています。この他,高エネルギー加速器研究機構でX線吸収微細構造(XAFS)の測定も継続的に行っています。
 研究室全体の活動として,週に1回セミナーとミーティングを行なっています。セミナーは地殻化学実験施設のメンバー全員(図4)で行われ,多岐に渡る研究分野の発表を聴くことができ,たいへん刺激になります。また,ミーティングは実験の進み具合の報告や意見交換が行われる,貴重なコミュニケーションの場となっています。その他,興味を持った分野や研究に深く関連した分野について意欲的な学生同士で輪講を行うこともあります。

 毎年7月には,化学専攻内の研究室対抗ソフトボール大会が開催されます。一昨年は練習の甲斐あり,準優勝の成績を修めることができました。今年は監督吉野,主将荒川という万全の布陣で優勝を目指し,この執筆の合間にも激しいトレーニングを続けています(「まだまだ足らないよ,ハッハッハ」鍵助教授談)。この他レクリエーション的なものとして,春はキャンパス内での花見,夏は鎌倉での花火見物などを楽しんでいます。
 長々とお付き合い有難うございました。二人で執筆したため,途中で文体が変わるなどの読み苦しい点が多々あったかと思いますが,どうかお許しください。紙面の都合上,本文中では紹介し切れなかった部分も多くあります。少しでも興味を持たれた方は,地殻化学実験施設のホームページ(http://www.eqchem.s.u-tokyo.ac.jp/)を是非ご覧ください。それではまたどこかでお会いしましょう。荒川,吉野でした。