本研究室で行っている研究の特徴は,これまで一般的であった全岩分析に加え,局所分析を行っている点にあります。全岩分析は試料全体の特徴をつかむ上では非常に有効ですが,それは個々の粒子を平均化しているため,より詳細なマイクロスケールでの情報を得るには局所分析を行う必要があります。二次イオン質量分析法の中でも特に,一次イオンビームを収束させて局所領域の分析に適用したものはイオンマイクロプローブ法と呼ばれています。オーストラリア国立大学で開発された高感度高分解能イオンマイクロプローブ「SHRIMP(Sensitive High Resolution Ion Micro-Probe)」は数~数十μm 径の微小領域の同位体分析が可能であり,現在日本では本研究室と極地研究所が一台ずつ保有しています(図2)。SHRIMP 測定では,分析スポットを最小で5μm 程度まで絞ることが出来るため,岩石試料に含まれる個々の粒子の年代や同位体組成を調べたいときに有効です。特に隕石の分析では,分析対象の鉱物が非常に小さく(隕石中のジルコンなど),またポリミクト化していてそれぞれの鉱物が別の起源を持っている場合があるので,それらの分析を行うのにSHRIMP は適していると言えます。本研究室のSHRIMP は1996年に設置されてから10年以上経過しており故障することもしばしばありますが,両スタッフの献身的な介護と学生の補助によって,まだ十分に稼動しています(図3)。分析機器としてはSHRIMP の他にも,レーザーラマン分光分析計,フーリエ変換型赤外分光分析計,X線分析顕微鏡などがあり,必要に応じて他研究室が保有する分析機器(ICP-MS など)を使用することもあります。
私たちの研究室も含めて,現在,本専攻では大学院教育改革支援プロジェクトに採択された「世界レベルのジオエキスパートの養成」を行っています。これによって,大学院教育が大きく変わり学生が受けられる支援の幅も広がりました。例えば,学生の国際学会参加や,新しい研究提案プロジェクトに対する支援などがあります。図4は,昨年本研究室が主催した「Workshop on the chronology of the Solar System」での一枚です。本研究室,本専攻では活発にこのようなミニワークショップが開かれるようになり,学生はセミナーだけでなく海外からのゲストとの研究交流を通して,コミュニケーション力を高めることができます。また,図5は筆者が提案した研究プロジェクトを実施しているところを写したものです。プロジェクトの一環として本研究室に招へいされたワシントン大学の甘利教授に特殊な化学分離操作方法を指導していただきました。このように,世界レベルの教育を受けることが出来るのも,本研究室,本専攻の良いところだと思います。