■北海道大学低温科学研究所大気環境分野 環境地球化学研究室

藤原真太郎

 みなさんこんにちは。今回は冬真っ盛りの北海道札 幌から,北海道大学低温科学研究所大気環境分野環境 地球化学研究室(河村研究室)の紹介をさせていただ きます。

 河村研究室は,河村公隆教授,関宰准教授,宮崎雄 三助教の3名の教員,ポスドク4名,大学院生6名 (博士課程2名,修士課程4名),共同研究員2名, 実験補助員2名と秘書1名の合計18名で構成されてい ます(平成22年2月現在,写真1)。因みに,研究室 は北海道大学大学院環境科学院地球圏科学専攻物質循 環・環境変遷学コース(長いっ! 英語名はCourse of Geochemistry です)にも所属しており,大学院生 の肩書きはこちらとなります。

 私たちの研究グループでは,大気や堆積物中に含ま れる有機物を主要な研究対象として,それらの環境中 での化学的・生物地球化学的諸過程を明らかにするこ とを目指しています。具体的には,大気エアロゾル (微粒子)を中心として,雨・雪・氷床コア・堆積物 中に含まれているアルカン・アルケノン・脂肪酸・低 分子ジカルボン酸やモノカルボン酸など,数多くの有 機物を分析対象としています。これらの化合物は,起 源や環境中での反応のトレーサーとして用いることが 可能で,測定を通して地球環境への影響を評価してい きます。

 例えば,大気エアロゾル中に含まれる有機物は,組 成が多種多様であり,雲凝結核として働くことで気候 や気象に大きな影響を与える可能性が示唆されていま す。しかし,大気中での反応メカニズムや組成分布に 関しては不確定な部分が多く,それらの理解が重要な 研究課題とされています。そこで本研究室では,主に GC(ガスクロマトグラフ)を用いて有機化合物の検 出・同定を行っています。前処理により試料中から抽 出した化合物をGC カラムで分離し,質量分析計に導 入する事で各化合物の同定を詳細に行うことが可能と なります。本研究室では,ガスクロマトグラフ(Agilent GC7890他),ガスクロマトグラフ/質量分析計 (Agilent GC7890/MSD5975, ThermoQuest TRACE GC/MS)を駆使することで,環境試料中に,これま でに報告の無かった未知化合物の同定を行うなど数多 くの成果を挙げてきました。

 その他にも,全有機炭素測定装置(SHIMADZU TOC-V CSH),イオンクロマトグラフィー(Metrohm 761 Compact IC),高速液体クロマトグラフ/質量分 析計(Agilent 1100 series LC/ MS),エアロゾルカー ボン分析装置(Sunset Laboratory)など,研究室の 多種多様な実験装置を用いて測定を行うことで,試料 を様々な観点から分析し,有機物が関与した地球化学 的な現象をより深く理解しようとしています。

また最近では,試料から分離された化合物に対し て,GC/IR/MS を用いて分子レベルでの安定炭素同位 体比および水素同位体比の測定を行うことで,化合物 の起源や,大気中での変質に関するより詳細な議論を 行う事を可能にしました。

 海外の研究機関との共同研究も盛んに行われていま す。対象とするフィールドも,国内(北海道内を始 め,沖縄,富士山など)に留まらず,国外(中国,東 アジア上空,北極域,そして南大洋など)の場合も多 く,様々な地域を網羅した研究を行っています。試料 は主にメンバーが実際の観測に参加して採取します が,共同研究機関に協力してもらうこともあります。 また,研究所の屋上や札幌近郊に位置する森林総合研 究所において定期的なサンプリングも実施しておりま す。

他にも,CCN(雲凝結核)カウンターやHTDMA (Hygroscopicity Tandem Differential Mobility Analyzer)を用いたエアロゾルの雲凝結核能の研究 や大気反応実験などの室内実験系や,森林・水圏にお ける物質循環など,有機分析,同位体比解析の技術を 活かし,現在も様々な方向に研究を発展させておりま す。

学生の場合,どの観測に参加するかは各自の研究 テーマ次第となります。私は昨年夏に富士山でのエア ロゾル観測に参加致しました。また,先輩には白鳳丸 に長期間乗船して観測をされた方もいらっしゃいま す。河村研では,フィールドに出たい人も,室内で実 験を行いたい人も,それぞれの研究方法を選ぶ事が可 能です。

 そんな研究室の雰囲気を一言で言い表すならば, 「多国籍!」です。研究室には,中国,韓国,インド など,アジアを中心とした7名の外国人研究者および 留学生が在籍しています。最も遠く離れた場所では フィンランドからの留学生が一緒に研究をおこなって おり,昨年夏にはフランスからの研究者が数ヶ月間滞 在するなど,海外との交流はかなり盛んだと言えま す。そのため,研究室のゼミは主に英語で行われ,日 常会話においても様々な言語が飛び交います(写真 2)。研究室の公用語が英語のようなもので(ちょっ と大袈裟ですが),英語さえままならない僕は,入学 当初日本に居ながらにして留学しているような気持ち になる事もしばしばでした。でも,もちろん先生方や 日本人同士でのコミュニケーション,日本人のゼミ発 表は日本語で行われるのでご安心下さい。また,研究 に疲れた時は,研究室のオアシスである秘書の神田さ んを始めとしたメンバー間での雑談や,飲み会,ジン ギスカンパーティー,河村先生宅でのホームパー ティーなど,多彩な研究室イベントを通してリフレッ シュしています。

河村研究室は北海道大学の北の外れの(有名なク ラーク像とは正反対の立地),低温科学研究所内に位 置しています。交通の便はあまり良くないのですが, 周囲は,夏にはシラカバの林が美しく,冬には一面の 雪景色など北海道ならではの風景が広がっています。 残念ながら,紙面上では研究室のごくごく一部しか 紹介することが出来ません。興味を持たれた方は,研 究室のホームページ(http://environ.lowtem.hokudai.ac.jp/index.htm)を併せてご覧頂くと,私たちにつ いて更に理解していただけると思います。大学院の受 験も歓迎です! そして,札幌にお越しの際は是非一 度お立ち寄り下さい。研究室員一同お待ちしておりま す!

以上,修士課程1年の藤原が執筆いたしました。