■東京工業大学大学院総合理工学研究科 環境理工学創造専攻/化学環境学専攻 吉田尚弘研究室

博士課程1年 服部祥平

 今回の院生による研究室紹介は、東京工業大学大学院総合理工学研究科 環境理工学創造専攻/化学環境学専攻 吉田尚弘研究室 です。担当は吉田研博士課程1年の服部です。私は博士課程学生ですがまだまだわからないことだらけで、研究室の学生と色々と相談し協力を頂きながら原稿をまとめさせていただきました。不肖の身ですが、どうぞよろしくお願いいたします。本稿では、吉田研の構成、研究設備、研究テーマ、さらには学外活動に関してご紹介いたします。

 本研究室(吉田研)は東工大すずかけ台キャンパスにて1998年に開設されました。2010年4月現在、国立環境研究所や海洋研究開発機構からの連携教員を含めた10名を超えるスタッフと学生22名(博士課程9名、修士課程13名)が在籍している大所帯の研究室です。吉田研が所属する総合理工学研究科は学部組織を持たない大学院を主体とする研究科であるため、他大学からの進学希望者が多く、物理、化学、生物、数学、農学等様々な分野から学生が進学してきています。また大学からだけでなく、企業からも社会人学生を多く受け入れています。海外出身のスタッフや学生も多く、2009年度はアルゼンチン、ロシア、スイス、中国出身メンバーが所属し、非常に国際色豊かな研究室となっています。

 吉田研は、生元素(H、C、N、O、S等)の安定同位体の組成や分子内における分布(アイソトポマー)を用いた物質循環解析を主軸とした研究を行っております。そのため、主力測定装置は安定同位体質量分析計(IRMS)であり、現在合計6台のIRMSが稼働しています。また、TDLASやFTIR等でも安定同位体測定を行っています。主力は安定同位体測定ですが、ガスクロ、液クロ、イオンクロ等の濃度分析を行う機器も有しています。吉田研では、特に測定法の開発に尽力しており、『今まで測れなかった物質を測定する』ことと、『より少ない試料で簡便に測定する』の両面を大切にしています。例えば、一酸化二窒素(N2O)のアイソトポマー比(N2O分子N-N-Oの中央の窒素をNα、端の窒素をNβとしたそれぞれの窒素同位体比)を測定することが可能です。これは吉田先生と豊田助教によって世界に先駆け測定されたもので、N2Oの生成消滅過程の解析の非常に有力なツールとなっています。さらに微量測定も可能となっており、主要な研究対象の温室効果ガスであるメタン(CH4)、N2O等は精製過程と測定をオンラインで行うことにより数nmolあれば安定同位体・アイソトポマー比を測定することができます。また、よりマイナーな同位体組成の計測にも注力しており、オフライン抽出-デュアルインレット方式であるためμmolオーダーの試料が必要ですが、四種硫黄同位体比(δ33S、δ34S、δ36S値)、二重置換二酸化炭素分子(質量数47のCO2、Δ47値で表す)等を測定することも可能です。上記したような吉田研特有の測定システムを用い、様々な環境の水、大気、岩石、生物等の試料を測定することで、物質循環をより深く理解しようと研究を行っています。最近では、マイクロ固相抽出法(SPME法)を用いることでエタノール等の揮発性有機化合物の簡便な測定法も開発し、環境試料だけでなく食品分析への応用も行っています。

 吉田研における研究の進め方の特徴として、様々な研究機関との連携が挙げられます。吉田先生は国内外の研究者と非常に広いネットワークを有しており、研究室全体としてそのネットワークを活かし、さらに広げ深める努力をしてらっしゃいます。私たち学生は、年度初めのミーティングで、吉田先生より吉田研研究生活方針、とりわけ人的ネットワークとコミュニケーションの大切さを教えられ、研究は一人で行うものではなく多くの人々のサポートの上で成り立っていることを学びます。外部の研究機関との連携研究の一例として、平成21年度から実施されている環境省総合推進費研究課題『温暖化関連ガス循環解析のアイソトポマーによる高精度化の研究』を挙げられます。本課題はアイソトポマー分別係数を理論計算で求めるグループ、大気試料の測定法開発及びデータベース構築するグループ、それらのデータを組み込んだ3次元全球化学輸送モデルの構築を行うグループがそれぞれ相補的に協同して進めています。これらのプロジェクトには、学生も積極的に参加することができます。現在、著者もこの課題の一端を担っており、大気微量成分である硫化カルボニル(COS)の硫黄同位体比を測定するためのフッ化・精製ラインの作成及び測定法の開発を行っています。このように、学生の研究テーマは分子反応過程、微生物代謝過程から全球規模の循環過程まで、ミクロからマクロまで広範囲に及びます。

 吉田研は様々な環境を研究対象としているため、毎年多くの学生がフィールド観測及び試料採取へ出かけています。2009年では、畜産草地研究所における牛のあい気(ゲップ)試料採取、海洋地球研究船における海水・洋上大気試料採取や海底熱水採取、長野県深見池 における湖水・堆積物試料採取、静岡県四万十帯地下帯水層における地下水及び地下微生物採取、北海道大樹町における成層圏大気試料観測等、幅広く赴いています。また、フィールド観測だけでなく、微生物培養実験や大気チャンバー模擬実験等の実験を行うために連携研究機関へ伺う学生も多数います。自身の研究室以外の研究者の方々とご一緒させていただく中で、私たち学生は本当に良い刺激を頂き、貴重な経験をたくさんさせていただいています。

 次に研究室で行っている行事等に関してご紹介します。吉田研では毎週水曜日のセミナーをはじめ、年1回の研究室合宿、外部の研究者の方をお迎えしたセミナー等を行っています。毎週行われるセミナーでは、毎回2〜3名が文献紹介や研究発表等を行い、全員で議論しています。ただ、上記したように当研究室は研究対象が非常に広範囲に及び、それらの基礎知識の習得や議論をより深く行うための機会を確保することが重要です。このため、自主的な勉強会も活発に行われています。現在は毎週木曜日に「学生勉強会」を開いています。ここでは、毎回担当の学生に「教えてほしいこと」を参加者がリクエストし、担当学生がリクエストに応えつつ話題提供するという独自のスタイルで行っています。このような自主的な機会を通じて、幅広い知識を身につけるだけでなく、主体的に「問いかけること」や「物事を批判的に捉える力」を養おうと思っています。学生主体の勉強会から新たな研究の芽が出るように、学生全体で工夫して継続していければと思っています。

 最後に、学生の学外活動についてご紹介します。吉田先生が国内外の研究者と非常に広いネットワークを有していることを見習い、私たち学生も学外の研究者との繋がりを積極的に作り、よりアクティブに研究を行おうと思っています。例えば、2009年度は、東工大地球惑星科学専攻の山田健太郎さんと筆者が幹事・副幹事、そして吉田研学生がスタッフとなり「日本地球化学若手シンポジウム2009」を企画運営しました。シンポジウムの後には、若手会を通じた繋がりを活かし、東大大気海洋研究所の山口保彦さんや筆者を中心に「地球化学関東若手セミナー」を企画・運営し始め、2カ月に1回開催しています。

 2009年は事業仕分け等もあり、社会的にも科学・技術が今後どのような方向に向かっていくのか、という重大な局面を迎えています。そこで、大学院生・PD等の若手研究者が当事者として何をどのように考え、言葉を紡いでいくのか考えていかなければならないのだろうと思っています。去る4月29日には、自主ゼミ「地球―生命について考えよう」と共同して地球化学・地球生命合同若手セミナーを開催し、通常の研究交流だけではなく人生観についても語り合いました。今後も様々な繋がりを大切にし、より多くの方々へ輪を広げていければと思っています。

以上で吉田研紹介を終わりにしたいと思います。本年度も日本地球化学若手シンポジウムは開催されます(幹事:山口保彦、日程:2010年9月9-11日[地球化学会年会の直後](予定)、Website: http://geochemwakate.blogspot.com/)。多数のご参加をお待ちしています。また、先生方におかれましては、学生の皆さまにご周知いただけると幸いです。最後になりましたが、吉田研のある東工大すずかけ台キャンパス(神奈川県横浜市緑区長津田町)は都心から少し離れた自然の多い良い所です。お近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。また、吉田研のホームページ(http://nylab.chemenv.titech.ac.jp/)にさらなる情報を載せておりますのでそちらもご覧いただければと思います。