■気象庁気象研究所地球化学研究部 第一研究室・第二研究室(松枝秀和室長・石井雅男室長)

気象庁気象研究所地球化学研究部第二研究室 笹野大輔

 今回の研究室紹介は,気象庁気象研究所地球化学研 究部からお届けします。当研究部には院生はいません ので,まだまだ気分は若手(?)な笹野大輔がご紹介 します。

 気象研究所は,気象庁の組織の一つで,気象・気 候・地震火山・海洋などの地球科学を総合的に研究し ている国立試験研究機関です。その中でも地球化学研 究部は文字通り,地球環境とその変化を化学的に明ら かにすることを目的としています。最近では,二酸化 炭素など温室効果ガスの大気増加と海洋吸収の変動を 評価し,その人為的・気候的要因の解析に重点をおい て研究を行っています。

 地球化学研究部では,緑川貴部長を中心とし,第一 研究室5人,第二研究室4人,客員研究員1人の計11 人で研究を進めています。この研究部の特徴は,何と 言ってもその対象空間の広さにあります。対象が陸域 生態だったり,海洋だったり,大気だったり。まさに 陸海空です。その上,これまでは観測を主体として研 究を進めてきましたが,ここ数年でモデラーも加わ り,ますます多様になっています。また,もう一つの 特徴は,気象庁の現業と強く結び付いていることで しょう。気象庁の大気観測点である綾里,与那国島, 南鳥島での観測や,海洋気象観測船凌風丸,啓風丸に よる観測は我々には欠かすことができません。一方, 気象庁の現業も,私たちの技術的なサポートを必要と しています。

 第一研究室では,大気化学環境の変動とメカニズム の解明を行っています。具体的には,温室効果ガスの 時空間変動の観測,温室効果ガスの変動メカニズムの 解明,陸域生態系過程を導入した気候モデルを使った 大気―陸面相互作用のモデル研究などです。中でも, 日本航空の旅客機による上空の二酸化炭素の観測は 1993年から続けており(2005年より国立環境研究所が 主体),アジア太平洋域上空を中心に,高い頻度で温 室効果気体の時間・空間分布の観測を行い,大量の データを収集しています。収集した観測データはデー タベース化し,全球の炭素循環の解析に利用するとと もに,インバースモデルや温室効果気体観測衛星の精 度向上に役立てています。

 第二研究室では,海洋の炭素循環の変動とメカニズ ムについて研究を行っています。具体的には,温室効 果ガスの大気増加に伴う海洋吸収などを調べるための 観測・品質管理手法を開発しながら,長期にわたって 海洋観測を行っています。その結果,大気中の二酸化 炭素濃度の増加に追随した海洋中の全炭酸濃度の増加 を観測によって明らかにしてきました。また,分光光 度法による高精度(0.001)の自動小型pH 測定装置 を開発し,海洋酸性化の実態についても研究を進めて います。

 研究部全体の活動として,全員参加のコロキウムが 週に1回行われます。専門分野が違うメンバーが集ま る中,積極的な意見が多く挙がり,議論が熱く盛り上 がります。分野を異にするメンバーが同居する研究部 だからこそ,お互いに情報交換ができ,さまざまな視 点から議論することができるのだと思います。学会活 動にも積極的で,昨年度はドイツのイエナで開かれた 第8回国際CO2会議に計7名で参加してきました。二 酸化炭素全般に関する科学的な会議で,大気あり,陸 域生態あり,海洋あり。まさに当研究部にピッタリ で,我々にとって4年に一度のオリンピックとも言え る会議でした。昼の部はもちろんのこと,夜の部もさ らに熱く(?)盛り上がりました。少人数のためか, 団結力もバッチリです。

 研究の中で,観測にもよく出かけます。私は毎年の ように観測のため船に乗っています。西部北太平洋で の観測が主ですが,時に外航にでることもあります。 昨年度は,白鳳丸に乗せていただき,なんと南極海で 新年を迎えました。観測はハードで,船内生活は制限 も多くてつらい思いもします(船酔いもするし…) が,普通の人にはできない貴重な経験をさせてもらっ ています。これも観測に力を入れている当研究部の魅 力ではないでしょうか。

 気象研究所はつくばにあり,緑がとても豊かです。 敷地内には,露場もあります。そのためか,窓を開け るとキジの鳴き声が聞こえてきます。所内で散歩をし ていると,野(良)ウサギを見かけることもありま す。過去には,イノシシが出て大騒ぎしたことも ……。そんな恵まれた環境で,我々は研究を行ってい ます。地球化学研究部に興味をもたれた方は,ぜひ気 象研究所にお立ち寄りください。また,学会や懇親会 等でお見かけの際は,気軽に声をかけていただければ と思います。

 以上,気象研究所地球化学研究部の紹介でした。