■東京大学大気海洋研究所海洋底科学部門海洋底テクトニクス分野
 (川幡穂高教授)


東京大学大気海洋研究所海洋底科学部門
海洋底テクトニクス分野川幡研究室
修士課程2年氷上 愛
 東京大学大気海洋研究所海洋底科学部門海洋底テク トニクス分野に所属する川幡穂高教授の研究室の紹介をさせていただきます。川幡研究室は現在,川幡穂高教授,井上麻夕里助教をはじめとし,研究員1名,博士課程3名,修士課程11名,卒業研究生2名,秘書1名で構成されています。本研究室は東京大学大気海洋研究所にありますが,大学院生は主に東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻に所属しています。一昨年度までは東京大学海洋研究所として中野に所在していましたが,昨年度から気候システム研究センターと統合し,新たに東京大学大気海洋研究所として柏キャンパスに設立されました。新しい建物,新しい環境でより一層研究に励んでいます。川幡研究室は他の研究室に比べて女性の比率が高く,賑やかで親しみやすい研究室です。

 私達の研究室の主なテーマは,地質学的,地球化学的手法を用いて物質循環と地球表層環境に関して過去・現在・未来における変遷を明らかにすることです。本研究室の特徴のひとつは,上記のような大きなテーマの下に学生一人一人が全く異なったサブテーマを持ち,そのサブテーマに対して様々な手法や試料を用いてアプローチしていることです。そのため,研究室のセミナーではいろいろな視点から先生・先輩方からアドバイスをいただけるので,地球環境について視野を広く勉強することができます。しかしその分,各個人が自身の専門について深く勉強し,研究を開拓していく姿勢が求められます。

 また,本研究室では,産業技術総合研究所や海洋研究開発機構などの様々な研究機関に学生を受け入れていただき,各機関に長期滞在しながら,新規同位体指標の確立など先端的な研究手法の開拓を行っています。フィールドでのサンプリングの機会も多く,各々の調査対象や地域も多岐に渡っていることもあり,いつも誰かしらが調査や分析のために研究室を留守にしている状況です。そんなフットワークの軽さも本研究室の特徴かもしれません。

  ここからは本研究室の研究テーマをいくつかピックアップして詳しく紹介していきます。

 過去や現代の環境変動に対する人間圏の応答を理解することは,私達が将来直面する環境への対応を考える上で重要です。たとえば,未来の温暖期を想定するために,人類が経験した過去の温暖期である縄文時代に着目し,気候変動と文明との関わりを研究しています。三内丸山遺跡からわずか20km離れた陸奥湾から採取した堆積物試料中のアルケノン分析による水温復元結果から,三内丸山遺跡が栄えた約5000年前には現在より約2.0℃ほど温暖であったことが明らかになりました。しかし,4200年前に突然2.0℃ほど急激に寒冷化していたことも分かり,寒冷化による陸上の食料生産の激減が遺跡の衰退をもたらしたことが予想されました。現在は,この気候の変化は東日本だけでなく日本全域における現象なのかを明らかにするため,広島湾より堆積物を採取し各種分析を行っています。また,気候と人間との関わりを調べるために,縄文時代だけでなく,奈良時代や平安時代はどうだったかなどにも興味をもち,今年の7月には大阪湾において高解像度の堆積物コアを採取しましたので,今後分析を 行っていく予定です。

 温暖化の他に,大気中二酸化炭素の増加によって引き起こされる海洋酸性化が,将来の生物圏に及ぼす影響についての研究に取り組んでいます。例えば,水温,光量,pCO2等の飼育環境をコントロールした精密飼育実験をサンゴ,有孔虫,翼足類等の海洋石灰化生物を対象に行ってきました。これまでの飼育実験の結果,海洋酸性化は多くの石灰化生物の石灰化量を単純に減少させるわけではなく,種レベルで複雑な応答を示すことがわかってきました。また,精密飼育実験から得られた生物学的な知見は,例えば古気候復元ツールとしてのサンゴ長尺コアの化学分析結果を再評価することにも貢献します。

 環境指標として微量元素や酸素同位体比だけでなく,近年ではホウ素やマグネシウム,リチウムなどの微量元素の同位体比についても,新たな指標として確立することを目指し,測定手法の開発にも力を入れています。

 また,物質循環の人為的な撹乱も,地球温暖化などを介して気候に,海洋酸性化や栄養塩動態への変動を介して生物へと影響することがわかっています。本研究室では特に,短い時間スケールでの陸域から海域への河川を介した炭素,栄養塩輸送過程の変化が地球表層の炭素循環にもたらす影響について研究しています。例えば気候変動の要因の一つとして,大気中の二酸化炭素濃度の増加が挙げられますが,長い時間スケールでは陸域は風化作用によって二酸化炭素を除去する働きがあります。しかし日本の河川において短い時間スケールでは,河川により輸送される二酸化炭素の起源はむしろ土壌有機物にあり,温暖化などでその輸送量は大きく変化しうることが明らかになってきました。

 今後は世界の大河川を例に検証を行っていきたいと考えています。今年の1月にはバングラデシュにいき,ガンジス・ブラマプトラ水系の河川水の採取を現地の研究者と連携して実施してきました。その他にも,栄養塩動態や土壌有機物の影響を考察するために,釧路の泥炭湿地や沖縄の地下ダム調査も実施しており,鋭意分析中です。

 このように,多岐にわたる本研究室の研究内容はこのページではまだまだ紹介しきれないので,より研究室の詳しい情報を知りたい方は,本研究室の所属する海洋底科学部門のホームページ(http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/)をご覧ください。