▼ 島弧の火山フロントに噴出する玄武岩マグマが水に富む
-伊豆大島火山の噴出物分析で新知見-

浜田盛久(会員、東京工業大学)

 浜田盛久会員(東京工業大学)は、川本竜彦会員(京都大学)、東京工業大学の高橋栄一教授、東京大学の藤井敏嗣名誉教授とともに、日本列島のような島弧(用語1)の火山フロント(用語2)に噴出する玄武岩に含まれる斜長石(用語3)の微量のOH量を調べ、最大で300重量ppmH2O、最低で20重量ppmH2Oの幅広いOH含有量を示すことを明らかにしました。このことから、マグマが最大で6重量%程度も水を含んでおり、水に飽和しながら噴火に至る様子を明らかにしました。
 島弧においては、海洋プレートの沈み込みによって、マントルに水が運ばれます。従って、マントルが融解して生じる島弧のマグマは水を含みます。斑晶ガラス包有物(用語4)は、鉱物が結晶化した際にメルト(用語5)を結晶内に取り込んで急冷・ガラス化したものであり、メルトの含水量の情報をもたらすと期待されている天然試料です。しかし、伊豆大島火山など火山フロントの火山から採取されたメルト包有物の含水量は1~2 重量%程度で、実験によって求められた含水量よりもはるかに低いため、水などの揮発性成分は一部逃げ出している可能性が考えられていました。
 斜長石は無水鉱物ですが、数百ppm程度の微量の水素をOH基として含み、メルトの含水量の指標として使えることが最近明らかになってきました。ただし、これまで鉱物中のOH量からメルトに溶けている水の量を推定したり、火山噴火の際のマグマ中の水の挙動を調べたりすることは一般的な研究手法ではありませんでした。浜田会員らは、鉱物中の微量のOH量を分析することにより、従来用いられてきた斑晶ガラス包有物の含水量の分析では分からなかったマグマの含水量についての再検討を試みました。その結果、マグマは地表付近では無水に近いものの、深度に応じて水の溶解度が高くなる地下10 kmのマグマ溜まりでは、含水量は飽和含水量である6重量%程度に達することを、伊豆大島火山1986-1987年山頂噴火の斜長石の分析によって突き止めました。これらの知見は、伊豆大島火山のような、島弧の火山フロントの火山のマグマが比較的水に乏しい(約1重量%程度の水を含む)と考えられてきた従来の研究とは対照的な成果です。

【掲載論文】
Hamada, M., Kawamoto, T., Takahashi, E. and Fujii, T. (2011) Polybaric degassing of island arc low-K tholeiitic basalt magma recorded by OH concentrations in Ca-rich plagioclase. Earth and Planetary Science Letters 308, 259-266.

【用語説明】
(1) 島弧:海洋プレートが大陸プレートに沈み込む境界の陸側に発達する弧状の列島
(2) 火山フロント:島弧に沿う火山分布域の海溝寄りの境界。
(3) 斜長石:化学組成は、NaAlSi3O8(アルバイト)からCaAl2Si2O8(アノーサイト)まで連続的に変化する造岩鉱物。伊豆大島火山の斜長石は、アノーサイト成分が90%程度のCa(カルシウム)に富む組成をもつ。
(4) メルト:マグマの液体部分。
(5) 斑晶ガラス包有物:鉱物中に取り込まれたメルトが冷えてガラス化したもの。